ローリングりっぷくりーむ                雑文へ    トップ


リップクリームというのは本当によく行方不明になります。

僕はよく唇が荒れるので、リップクリームは必需品なのですが、
これがすぐにどこに行ったか分からなくなる。
爪切りと同じくらいかくれんぼが得意なんです。
家中を自由意志で転がってんじゃないかと思うほどです。

ちょっと想像してみたら、なかなかシュールな光景です。
人目を避けるように、誰も見てない時だけ転がるリップクリーム。
こっそり隠れてほくそえむローリングリップクリーム。

想像はさておき、リップクリームは肝心な時にいなくなります。

あれは一昨年の今ごろ、新入社員研修のときでした。

本社会議室での研修を終え、品川の宿泊施設に戻った時でした。
空調に晒されまくって、荒れた唇をケアしようとしたら、リップクリームが消えてました。
またか、僕はちと苛立ってしまいました。
気を落ち着けるために、激キュートな生物の先生でとりあえず一発抜きましたw
で、残ったティッシュを始末しないといけないんですが、
トイレに流すのは良くないと思い、ビニール袋にいれて二重に密封して、
旅行かばんの裏に隠しておきました。

落ち着いた僕は、レポート課題を仕上げようと机に向かいました。
そして、ペンケースを開いたら、リップクリームが鎮座していました。
こんなとこに居やがったか。
お前のせいで、2億匹のワンダフルライフが犠牲になったんだぞ!
まあ、どう考えても俺のせいですが。

その後は行方不明になることはなく、ビニール袋共々役に立ってくれました。
そして数日後、研修地は東京から名古屋へ変わります。
身支度をしていて、ふと、また奴がローリングしてないか心配になりましたが、いました。
それを旅行かばんに入れようとして……

栗の花スメルがしました。

しまった……近くに置きすぎた。
カバンに移り香した。よりによって精液の匂いが。
うわーーーーーー!!!
俺はカバンを持って窓を開け、カバンを振り回します。
なんとか匂いは飛んでくれましたが、この中に生活用品を詰めるのには、
少々抵抗がありました。

件のビニール袋は品川のコンビニの生ごみ箱に捨てました。

そして、名古屋に着きました。
研修中でしたが、独身寮の鍵をもらいました。
せっかくなんで見に行きました。

ぼろかったです。
築40年くらい行ってそうです。
これからここで暮らすのかと思うと若干不安になりました。
ところが、中に入ると、外見とは違い小奇麗な部屋でした。
改装でもしたんでしょうね、壁紙は真っ白です。
ちょっと安心しました。

荷物を降ろしてカバンを開けました。
やっぱりほのかな栗の花スメル。
移り香がさらに移り香して、衣類がいやな香りに包まれていました。
さっさと洗濯しようと心に誓いました。
リップクリームもさすがにこの空間からは脱出できなかったのか、
底の方で無事発見しました。

さて、と、
立ち上がった瞬間でした。

…………

言葉では言い表しにくい不愉快な感覚。
なにかおかしい、でも何がおかしいかは分からない。
そんな、いやな感覚に襲われました。
何がおかしいかは分からないが、微量の不快感がある。
霊感? まさか……
そんな高尚なものは持ち合わせてはいません。

釈然としないまま、椅子に座って椅子を引いた時です。

ゴー!

……キャスターつきなのだが、それにしてもよく滑る。引きすぎてしまった。
元に戻します。

ころころ……

先ほどとは違い、抵抗が大きい。

……まさか……

震える手で掴んだリップクリーム。
フローリングにそっと置く。

……

…ころ

ころころ

夢のローリングりっぷくりーむが実現。

……カタムイテイル……
この部屋、傾いてるYO!

こんな部屋になじめるんだろうかと心配しましたが、
ものの一週間で慣れました。
退職するまでの1年半、そこで何不自由なく暮らしました。
最後には傾いてることが分からなくなってました。慣れって恐ろしい。

退職してから半年たって、まだあのリップクリームは残ってます。
なかなか使い切らないですよね、リップクリームって。
懐かしくなって、ちょっと探してみたら、
いません。

またローリングしたようです。
探しに行ってきます。




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