雨の日のアスガルド

雨が、降っている。風も、強くなってきた。

昔は雨が好きだった、どことなくアンニュイな気分にしてくれるから。
窓越しに雨を見る。窓ガラスに雨粒が当たってははじけていく。
そこに一抹の儚さを感じつつ、アンニュイにすごす。
マイラバのニューアドベンチャーでも聞きたくなってくる。

子供の頃はこんなネガティブな好み方じゃなかった。
雨は雨で好きだったし、晴れは晴れで好きだった。
農家の人には悪いが、台風は台風で好きだった。
そんな無邪気さをどこに置いてきたのだろうか。つい探しに行きたくなる。
まあ、あの頃の無邪気さのまま、スカートめくりなんかしたら、豚箱直行なわけだが。
今さらだが、悪かったみさきちゃん、幼稚園児だった頃の俺は無邪気すぎた。
ただ、「エッチ!」と罵られたときに、そこはかとなく快感を感じていたから、そんなに無邪気でもなかったのかも。

時間軸は大学生の時に戻り、僕はアンニュイな気分でアスガルドをやっていた。
アスガルドとはMMORPGのひとつで、当時はベータ版だったため無料だった。
このゲームの特徴は、キャラクターが非常に可愛らしく、表情アイコンなんかもあって、他のPCとコミュニケートしやすい仕様になってたことだ。
僕はガテンと名乗ってプリーストを生業としていた。もちろん男キャラだ、僕にネカマ属性はない。
僕にとっては初めてのMMOだったので、最初は緊張もしたが、次第になれていった。

谷君はたしかシーフをやってたと思う。よくパーティーを組んで狩りに出かけたりした。
敵の大きさは大体自キャラと同じくらいなのだが、たまーに笑っちゃうくらいでかいのが、これまた笑っちゃうくらいの高速で駆け回っていたりして、複数のパーティーが一丸となって戦うなんてこともあった。倒せた暁には皆で「おつかれー」なんて言い合い、一時の連帯感に浸ったりできた。

そんなある日、僕と谷君はいつものように二人で狩をしていた。

そこで、近くに戦士らしき二人組みを見かけた、レベルはほぼ同じだった。パーティーを組めればいいなと思った。あちらはプリーストがいないから尚更だったのだろう、向こうから話しかけてきた。

「よかったら、パーティー組みませんか?」

当然OKした。そして簡単な自己紹介をした。向こうも自己紹介してきた。
「戦士の○○です(忘れた)、よろしくお願いします」
話しかけてきたほうだ。普通に感じのいい人だ。
そしてもう1人が自己紹介を始めた。
「クールナイトだ」
……若干ぶっきらぼうな印象を受けた。まあこんな人もいるんだろう。
「じゃあ行きましょうか、○○さん、クールさん」
俺は普通に話しかけた、つもりだった。
「クールじゃねえ、クールナイトだ、略すな」
このときの感情をどう表現したらいいのか……
その後、クールナイトさんは、
「うおおおお」
なんて奇声を発して敵に突貫したり(全くクールじゃない)、突然いなくなったり(地味に一番困る)、僕達を引っ張りまわしてくれた。
正直、もうこいつとは組まないと心で誓っていた。
しばらく彼の名は、僕と谷君の間で語り草になった。


雨の日になると、今でも思い出すクールナイトという名の無邪気な戦士。
世の中には、ほんとにいろんな人がいるんだなあ……
もしかしてクールナイトのCoolは、Koolだったのかなぁ、だとしたらとんちが利いているなあ……
そんな彼の生き様を思い出すたびに、アンニュイな気分が混沌としてくるのだった。



企画、雑文